「教育×企画」京都発スタートアップ
パーソナライズド・プロジェクト・ベースド・ラーニング
活動概要
10歳からの社会人教育「studioあお」、寺社仏閣でのテクノロジー教育「寺子屋LABO」、立命館大学大阪いばらきキャンパスでの産官学連携教室などの経営、SoftBankのPepperプログラミング講座他、企業とのコラボ案件など幅広く手がける。
Q1「現在どのような活動を行っていますか?」
会社としては、関東・関西で7教室、あとオンライン教室を運営しています。ざっくりと言うと、“プロジェクト・ベースド・ラーニング(PBL)” ※1 という領域の教育を専門で行っています。
子どもたちが自分たちの興味から、プロジェクト:研究・商売・物作りなど、様々な形のアウトプットを行っていく。その中でも私たちは、一人一人バラバラで良いよっていう“パーソナライズド・プロジェクト・ベースド・ラーニング”という取り組みを行っています。
教室の中に「寺小屋ラボ」という名前の教室があるのですが?
寺子屋ラボは、その中でもテクノロジーに特化した教室で、関東と関西のお寺でやっています。子ども達と世の中の課題を発見し、ロボットやコンピューターを使うと「どういった解決策があるのか?」を考え、実際にプロトタイプを作っています。プログラミング教室という面でいうと、1つの教材(レゴ等)と専属契約して事業をやっているところが多いんですが、寺小屋ラボでは1つのクラスに複数の教材をおいています。ここは、テクノロジーで課題解決をするためのプロセスを学ぶ教室であり、テクノロジーはあくまでツールなので、子どもたちが見つけた課題に応じて、ブラウザ・Webアプリ・ロボットなど使う教材を変えています。
世の中には課題がすごくたくさんあって、顕在化していないものも多い。「なんで?」「どうしたら?」という疑問から課題を顕在化させ、解決策をみんなで考え、それぞれが実行していく。そのサポートを色んな人たちの力を借りてやっていく。そういった、ちょっと変わった教室です。
なぜこのような教室を始められたのですか?
教育の世界は、 社会が変化していくのに対して中々変わってこなかった。だいたい150年前からシステムは変わらず、60年前から習っている内容がほとんど変わってない(教室に座って先生がみんなに向かってしゃべるという“教育”ができたときに日本で発明されたのって、ゴム靴なんですよ!)※2。それを未だに全国民が受けてる。そう思うと、ちょっと危ない感じがしませんか?そのことに4年前に気づき、「誰がそのギャップを埋めてんだろう?」って調べてもプレイヤーが出てこない。そこで、「この仕事やろう」とはじめたのが、“教育×企画”という今の仕事です。子供が好きだったことと、広告企画の仕事をしていたので。
教育の世界に“つくる”という概念を持ち込むというのが、僕らがやっているところです。具体的に言うと、①近所の野良猫を見つけるために、写真好きな子が写真集を作ったりとか、②小学生の子が、教室のペットが死んだことをきっかに、おうちでペットの埋葬ができるキットを開発・販売したりとか、③中2の子が、世界最強の毒を持つイソギンチャクの毒を防ぐ方法を考えたりとか、そういったことをやっています。「こういうことやってみてぇな!」とか「こういうのに最近興味あるんじゃない?」っていうところから、“世の中に無いもの”や“解決策”をみんなで考え、それを各々が実行していく。そういう教室です。
Q2「あなたが考える、現在の教育業界が抱える課題や問題点は?」
“つくる”っていう概念がないっていうのが、根本的な課題だと思っています。
ただ、それを解決していこうと思ったときに、学校の先生が忙しすぎるとかって問題はクリティカルな話になってくる。部活やって、採点して、学校来なくなっちゃった子の家に行って、“プロフェッショナル”として、仕事以外にやることがすごく多い。そういった課題はたくさんあると思います。
解決する方法としては、「どうやって社会リソースを教育の世界に投げ込んでいくか」ってところだと思います。なんか、今は教育と教育以外のものがスッパリと分かれすぎている。例えば、部活の顧問なら、運動上手い人や将棋うまいおじさんとかにお願いした方が良いし、理科の実験とかですごい興味を持ったときは、近くの大学に行ったりして、グイグイ研究しなよってやった方が良い。そういった外側との接続性が低い状態が問題だと思っています。きっぱり分かれている。教育は聖なるポジションだって考えている人がチョットいるんじゃないかなぁと。(でも、)教育は、社会に人々を送り出す為のただの機能なので。コンビニに弁当を作って送り届けるとか野球のグローブを生産・販売するとか、そういった事と全部一緒なんですけど、「教育者だ。俺らは」って感じになるんですよ。「何を言うとんだ!」って感じです。
そういった課題が生じる理由はどこにあると思いますか?
サンクチュアリ的な扱いはやっぱありますよね。教育の世界に対しての特別な意識が強い。もちろん特別だと思うんですよ、“未来をつくる”とかって意味で。子ども達と関わっていると僕もすごく楽しいし、他にない仕事だなと思う。ただ、特別な意識が今の日本はすげぇ強いなって思っていて、その状態があまりにも続きすぎている。「ここは教員試験を通った俺たちの場所だ」とか、塾とかも全部そうですけど。教育が“聖域化”しすぎている。そうすると、何にも変わんないですし、化石化していくと思います。その中で、若い先生が外に出て行く。そういう動きをされている先生が何人か出てきて有名になった。そういうのは良いなぁって感じています。
具体的なズレで言うと、サービス受給者(お金を払う人)とサービスを出す人が一回りしている。公立学校では、受給者から税金として吸い上げられたお金が、お給料として出す人に来ますよね。そういった意味では、私立の方が健全だなと思うときがあって、この感覚が重要だと感じています。
「何を教育として届けることが本当にいいんだろう?」という問いが出てくることが重要。お金のやり取りが複雑になっている分、そういった重要なことが考えにくい構造なのかなと思ったりします。
キーワードとなる「つくる」という概念は具体的にどのようなイメージですか?
“教育をつくる”っていうのは、ざっくりいうと2項目あって、1つは「何を教えるか」、もう1つが「どうやって教えるか」です。ようは、科目自体も多様化する、変化する方が自然なんじゃないかなって気がしていて。お金の学習を日本はしないとか、“自由研究”っていう良い機会があるのに、あまりそこの教育をしないとか、が気になる。現代において学ぶべきものがあるはず。データの扱い方とか。あとは、自分の好きなことを深く長く学ぶ時間が必要だ、とか。というのが「何を教えるか」って部分。学び方は、教室型かWebサービスなのか、書籍なのか、動画なのか、っていう部分を柔軟に捉えた上での「学び方の設定(どうやって教えるか)」、この2項目をあわせてできるのが“教育をつくる”ということ。
Q3「将来、日本の教育はどうなる(べきだ)と思いますか?」
「べき論」で語るのってちょっと難しいなと思って、なったらいいなぁの話になるんですけど、“イノベーションを起こせるか”っていうのが指標になってくると思っています。教育の世界にっていうよりも、教育の世界を出た後の子どもたちが、どれだけ新しいものを生み出したり、社会に価値あるものを生み出せるかが大事な指標になってくると思います。その中でも、めちゃくちゃ重要なのが“モチベーション指数”。「やってみたい」というのが無いと何も始まらない。「やってみたい!」って言う子をどれだけ世の中に増やせるか、そこを指標にみる“教育”になってほしい。ぶっちゃけWebサービス1つで世の中の価値観が変わったりするじゃないですか?数年でガラっと変えたいなっていう気持ちはあります。そういう風に変わってほしいです。理想は、どこの飲み屋にいっても、若い学生とかが「あと100万あればできんだよなぁ」みたいな、金しか困るポイントがないって状態にしたい。それで、お金持ちになってたら「じゃ100万やるよ!」みたいな感じで。そういう世の中になると、どこに飲みにいっても楽しいし、そういう状態が国としてもベストだと思います。
資本を教育業界に集約する秘策などはありますか?
めっちゃシンプルなんですど、人の成長ってめっちゃおもしろいんですよ。これが結構、僕の中で勝算として捉えているところです。
例えば、週刊少年ジャンプって毎週270円払うんですけど、あれって、ほぼほぼ成長ストーリーなんですよ。ダメダメな落ちこぼれの少年が、課題を乗り越えて火影になっていくとか、ちっちゃい夢しかない少年が、いろんな仲間を集めて海賊王を目指していくっていう。みんなそれに270円払うわけですよ。月1000円ぐらい払うわけですね。(教育って)リアルにいる人間で、しかも干渉する可能性があるわけですよ。ウェブとかを通してそういう意見を集約することができたら、自分たちが届けたメッセージで、その子たちが良くなっていく可能性がある。そこをちゃんと追えていけば、絶対おもしろいはずなんですよ。エンタメ価値って言いすぎるとあんまりちょっとよくない感じなんですけど、そういうおもしろさが絶対そこにあるので、それをキーポイントにしようと思っています。
一方で、「教育は儲からない」っていう話も聞くのですが?
結構はっきりですね、教育は儲からないっていう風に投資家さんとかに言われたことがあって、「うるせぇな」って思ってたんですけど。ぶっちゃけ、まじめに教育で儲けようと思った人がそんなに多くないっていうだけだと思います。教育が儲からないっていうのであれば、塾業界とかが存在しないはずなので、「教育が儲からない」って言葉自体が全然適切じゃないなって、反発してるんですけど。
教育の世界は儲かると思います。総人口が受けるものだし、お金が親御さんっていう経済的に成熟した人たちから出てくる。学生とかをターゲットにした商売じゃない。なので、ちゃんと儲かるカタチをつくれば儲かるなという風に思っています。あと、みんなが大事だと思っている。日本でいうと衣食住っていうのは、もうある程度完備されているので、次のところにみんなお金を使っていく。エンタメ・教育のラインは儲かるはず。
儲からない理由?“儲からないと言われている理由”で言うと、サービスモデルが定型化している。“通塾に対してお金を払ってもらう”というモデルに教育の世界っていうのは固執してきた。それで成り立ってしまっていたが故に、新しいサービスモデルを考える人があんまり多くなくて、教育の世界はあまり儲からないという風に、要は労働集約型※3だという風に言われているのだと思います。例えば、スタディサプリとか※4、そういうサービスが儲からないとか、いけてないかというと全然そういうことではない。イノベーションの余地はすごくたくさんあると思います。なので、そこを狙っています。
SQ「もし、女性になれるとしたら何をしたいですか?」
女性になれるとしたら!?すげー角度違いますね。シンプルに“僕が”でいいんですか?教育とか関係なく?僕が女性だったら「総理大臣」を目指すかな。今、世の中では、女性をっていう風なことが言われつつ、役員の女性比率が低かったり、議員さんの中で割合が均等ではなかったりといった状況がありますよね。まぁシンプルな話、目指す人もそんなに多くないんじゃないかな?って思います。女性社長ってもう結構いると思うので、あまりセンセーショナルじゃない。象徴になるために、総理大臣とか“誰もついたことがないポジション”につきたいなって思いますね。
※1 プロジェクトベースドラーニング(PBL)
複雑な課題や挑戦しがいのある問題に対して、生徒が少人数のグループでの自律的な問題解決・意志決定・情報探索などを通じて解決を目指す学習方法。
カナダのマックスター大学において、教育学者ジョン・デューイによって開発された学習理論である。アクティブラーニングを実現する手法の1つとして注目を集めている。
『エドテックジン-用語集』https://edtechzine.jp/
※2 教育制度・科目制度
学生(1872年)、教育令(1879年)が制定され、制度としての教育が成立した。国民学校令(1941年)が制定され、現在の教科・科目の原型が編成された。
※3 労働集約型産業
存在している産業の中でも人間による労働力による業務の割合が大きい産業のことを労働集約型産業と言う[1]。
現代の日本では接客を行う商業やサービス業などと言った第三次産業が労働集約型産業とされている。
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』http://ja.wikipedia.org/wiki/
※4 スタディサプリ
リクルートホールディングスの子会社であるリクルートマーケティングパートナーズが運営しているインターネット予備校。
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