虚構のニンジン ―第2回―

「合格確約」という名の都市伝説

―― 98%合格率が生み出す語られない前提

「大阪の私立高校には、事前に合格が決まる仕組みがあるらしい 1

こうした話をすると、

  • 「さすがに、それはないやろ」
  • 「それなら、受験もないはずや」
  • 「都市伝説みたいな話やな」

と一笑に付されることが多い。

実際、今年の夏に私が行った公立中学校教員向けの調査 2でも、次のような声が寄せられた。

「学園ドラマに出てくる架空の話のようだ」
「生徒や保護者でも知っている内容を、秘密裏に行われているかのように調査するのは残念だ」

この回答だけを見れば、
「事前に合格が決まる仕組み(ここでは便宜的に「合格確約」と呼ぶ)など存在しない」という解釈も可能であろう。

しかし、ここで一度、1回のデータ 3を思い出してほしい。

98%が合格する入試は「普通」なのか

大阪の私立高校入試では、例年のように
志願者の約98%が合格している

もちろん、

  • 受験生の学力が高いから
  • 進路指導が行き届いているから

という説明も可能だ。

しかし、冷静に考えてみてほしい。

  • 志願者の大半が合格最低点をクリアする
  • それが、ほぼ毎年のように続いている

これは本当に、
「当日の試験結果だけ」で説明できる現象なのだろうか。

存在しないはずなのに、現場では前提になっている

私が「合格確約」という言葉を使うと、
教育関係者からは次のような反応が返ってくる。

  • 「なくはないが、なければ困る」
  • 「暗黙のルールなので、公には言えない」
  • 「少なくとも公式には存在しないことになっている」

つまり、
その存在は否定されつつも、現場では共有された前提
として扱われている。

存在を認めれば“問題”になるかもしれない。
一方、否定すれば、話の辻褄があわない。

だから誰も、正面からは語らない。

これこそが、
この慣行が都市伝説化する理由である。

実は、40年前には「書かれていた」

ところが、この話は一昔前までは、
触れてはいけない大人の事情というほどではなかったようだ。

1990年に出版された学術書
『内申書を考える』(日本評論社)には、
次のような記述があった 4

「大阪府では四〇年近く続いている中学校と私立高校との間の慣行で、初期の頃は中学校の進路担当教員が私立高校に出向き、合格の目安を聞く情報収集の場であった。ところが競争の激化とともに様相が一変し、入学者数を確保したい私立高校と、中学校浪人を避けたい中学校側の意向が一致し、事前選考の様相を呈してきた。」
「そのとき中学側は成績(内申書や校内実力試験の結果など)を見せて、俗にいうOKを出してもらうことにより、内示ではあるが、合格を示唆してもらうのである。」
「内示でOKの出た生徒は、長年の慣行でよほどのことがないかぎり落とされることはないのが原則である」

ここで描写されていることこそ、
私が「合格確約」と呼んでいる慣行である。

つまり――
この都市伝説は、少なくとも数十年前までは公然と語られていた
ということになる。

なぜ語られなくなったのか:1993年のタブー化

おそらく転機は1993年、
文部科学省(当時・文部省)が出した、事前相談や単願推薦に関する通知であろう。

平成5年(1993年)文初高第243 26 5

「一部の地域で行われている、いわゆる単願推薦等についての事前相談等については、推薦入学と同様に、公教育としてふさわしい適切な資料に基づいて行うことはもとより、あまり早い時期に行われないよう関係者が十分協議し、一層の改善を図ること。また,選抜要項上、日程、募集人員、選抜方法などについて明示すること

この通知の内容をかみ砕いて説明すると、

  • 事前相談はセーフ
  • ただし、適切な資料(民間模試NG)で行うこと
  • 事前選抜(内定)ならアウト
    → かならず選抜方法などの詳細を明示すること

ということになる。

すなわち、先ほど学術書に記載された慣習が事実だとすると、建前としての事前相談はセーフだが、実態が選抜に近づくほど、制度上の説明は難しい。
そういう構造になる。

だからこそ、「誰も語りたがらない」
そういう、奇妙な沈黙が生まれるのではないだろうか。

誰がこの慣行を必要とするのか

この話題が都市伝説であり続けることは、
結果として多くの関係者にとって便利でもある。

  • 私立高校側:募集の安定(定員確保)と、形式上の「公平な試験」の両立
  • 中学校側:進路未定(いわゆる浪人)を避けたい/保護者トラブルを避けたい
  • 保護者・生徒側:不安を減らす安心材料として機能する
  • 塾など民間側:進路指導の説得材料になる(ただしグレーな領域ではある)
  • 行政側:表向きは「各校の選抜」で距離を置ける(ただし不信は溜まる)

ここで重要なのは、
誰もが「積極的に悪いことをしたい」わけではないという点だ。
それでも便利さが積み重なると、慣行は残る。

補足:スポーツ推薦も同じ課題を抱えている

先ほどの提示した、

通知26)「選抜要項上、日程、募集人員、選抜方法などについて明示すること」は、選抜方法の工夫を行うこととされる
スポーツ推薦入試にも当然あてはまるものと解釈できる。

ただ、大阪では、推薦入試制度はほとんど設けられておらず、
スポーツコースの生徒ですら一般の受験生と同様の学力試験を受けていることが多い。

つまり、
厳格な意味での「スポーツ推薦」はほとんど存在しない(ことになっている)

言い換えると、
一般の受験生と同様の学力試験をうけているなら、
他の生徒と同様の基準で合否を判定しないといけないはずである

それは“推薦”と言うのだろうか?

毎年のように、「スポーツ推薦が決まった!」喜ぶ生徒を見るが、
これは、どう理解すればいいのだろうか。

実態が語ってしまうこと

ここで、改めて問い直したい。

  • 毎年98%が合格する入試
  • 40年以上続く慣行の記録
  • 現場の声
  • 自称スポーツ推薦の存在

「ほぼ全員が、本番で合格基準を超えている」と考えるのと、
「事前に一定の“すり合わせ”が行われている」と考えるのと、

どちらが自然だろうか。

私個人としては、後者のように解釈した方が、
整合的に説明できるように思える。

 


次回予告

私立高校の合格率が約98%を超え、都市伝説的な慣習がある中、
公立入試だけが、未だに時代遅れの一発勝負を前提としている。
ただ、「それが受験だろう!」と感じる人も少ないはずだ。

しかし、これは決して当たり前の制度ではない。

次回は、大阪の公立入試制度の課題を整理し、
なぜ、その課題が解消されないのかを検討する。

そうし、日本への導入が提言される
マッチング理論(DA方式)を用いた公立入試を
課題解決の糸口として紹介する。


※本記事は、筆者の教育実践および公開資料の分析に基づく一般的な解説であり、特定の学校・団体・個人を非難または評価することを目的とするものではありません。

※記載している数値や事例は、制度理解を目的としたモデルケースまたは公開情報に基づくものであり、個別校の入試結果や合否を保証するものではありません。

※最終的な進路選択にあたっては、必ず各学校が公表する最新の募集要項・説明会資料等をご確認ください。

筆者:藪中孝太朗


 

  1. ここで、事前に合格が決まる仕組み(=合格確約)は、「出願前に『合格すると思う』などの内意が,明示・暗示を問わず伝達されること」を意図しており、入試を受けなくても合格が保障されるような仕組みを指してはいない。
  2. 本調査の結果については、別途論稿にて発表予定である。
  3. 「大阪私立高等学校入試1次募集選抜結果」(情報公開請求にて筆者が取得)
  4. 今橋盛勝・瀬戸則夫・鶴保英記・山崎真秀編(1990)『内申書を考える』日本評論社, pp.146-147.
  5. 「高等学校入学者選抜について(通知):文初高第243号平成5年2月22日」https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kaikaku/04120702/001.htm

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